【中古】 ザ・タートル 投資家たちの士官学校 /マイケルコベル【著】,遠坂淳一【監訳】,秦由紀子【訳】 【中古】afb 価格:1,320円 |
概要
「優秀なトレーダーを養成することは可能か?」
この問いに対し,二人の天才トレーダーは,対立する意見を持った。
リチャード・デニスは,トレードで必要なのは技術であり,誰でも身に着けることができるはずだと主張した。これに対し,ウィリアム・エックハートは,トレードで成功するためには天賦の才が必要であり,教育など不可能だと主張した。
彼らは,実証実験を行うことにした。求人広告を出し,応募者から選考した十数名に二人が考えうる最高のトレード教育を行う。果たして生徒たちはトレードを習得できるのか?
結論から言えば,トレードを習得することは可能だった。
二人の天才から教えを受けた凄腕トレーダー達はタートルズと呼ばれ,伝説となった。
本書は,こうして誕生した天才トレーダー集団,タートルズの実像に迫る名著である。
なお,載せているリンクと記事のタイトルが違うが,これは,私が読んだの復刻版で,リンクは初版だからだ。復刻版には,初版になかった後書きが追記されている。
タートルズの手法
本書では,タートルズの手法がしっかり載っている。1章まるまる手法の解説に割かれている。タートルたちが取引していたのは主に先物だが,FXにも転用可能だろう。ルールは一言でいえばトレンドフォロー。かなりシンプルで,真似しようと思えば誰でも真似できそうだ。つまりは再現性があるということで,だからこそ,トレーダーを養成することは可能だということなのだ。
具体的には,相場のブレイクアウトを狙う。エントリールールは複数あるのだが,基本的なルールは,相場が過去4週間の高値を超えたら買い,過去2週間の安値を割ったらポジションを手仕舞うというもの(ロングの場合。ショートならその逆。以下同じ)。
また,特徴的なのは,ボラティリティをポジションの適正規模の判断に用いることだ。まず,市場のボラティリティを測定し,これの20日移動平均を算出し,リスクを割り出す。例えば,ある商品のその日の値(N)が7ドルで,50倍のレバレッジがかかっているなら,リスクは350ドルということになる。そして,損切ラインを2Nに設定する。とすれば,1玉あたり700ドルが最大損失となるが,最大損失が口座残高の2%以内になるように,ポジション数を調節する。残高が10万ドルなら,2000ドルまでリスクを取れるので,2000÷700=2.86となり,端数を切り捨て,2玉までポジションを取れることになる。
そして,重要なのが,ピラミッディングのルールだ。ここでもボラティリティを使う。価格が1N上がるたびにポジションを追加していく。実にシンプルなルール。さっきの例でいうと,7ドル上がるたびに増玉するわけだ。この増玉に関しては,先ほどの許容リスクとは切り離し,1Nごとにガンガン足していき,ストップを最後の増玉の2N下に置く。
利確は上述の2週間の安値だ。
トレンドが続く限りはどんどん利益が上がるのだが,天井で利食うことはできないから,細かく損失を出し続けることになる。コツコツ負けてドカンと勝つスタイル。
さて,ボラティリティをトレードルールに組み込むというのは面白いのだけど,残念ながらこれはデイトレには使いづらい気がする。日足を念頭に置いたルールだから。
読み物としての面白さ
読み物としてとても面白かった。
伝説だの,天才だの,そういった言葉は決して大げさではない。巻末には,タートルたちの実験時のトレード成績や,実験後にファンドマネージャーとっなった一部のタートルたちの運用成績も載っているのだが,確かに勝ちまくっている。
タートルたちは,決して天才ではなかった。そんな彼らが,どのようにして相場に打ち勝ったのか。
そして,トレードを習得した彼らのその後の人生は?
実に興味深かったし,示唆に富んでいた。
以下はネタバレを含む。
やがてタートルズの全体の成績は,師であるデニスを上回るほどになった。
タートルの中には,デニスに対して,トレードルールが過剰にリスクを取りすぎていることを指摘するような者も現れた。デニスはこれを認め,トレードルールを修正した。
優秀なトレーダーを育成することは確かに可能だった。
だが,個人で見ると,運用益には差があった。同じルールに基づいてトレードしているのに,だ。そして,デニスはタートルたちに運用を任せる資金を増減させたが,それは個人の運用益とは連動していなかった。タートル間に嫉妬と不公平感が広まる。そして,デニスによる突然の実験終了。
タートルたちは,デニスの後ろ盾を失い,それぞれの人生を歩んでいく。
ある者はヘッジファンドのファンドマネージャーとして大成功し,ある者はトレードから足を洗ってしまった。
そして現れるタートル第二世代。彼らは,タートルズの成功を見て,タートルズの手法を真似て成功した者たちだ。つまり,デニスの直接の教えを受けずに,成功を手にした者達だ。彼らの存在こそ,誰でもトレードで成功できる可能性を示すものだった。
トレーダーとして成功するために必要なものは何だろうか。
タートルズは,才能よりも技術が圧倒的に重要だということを示した。
だが,タートル個人間で大きな差が生じたことは,何を意味するのだろう。
著者は,タートルズの物語を大きく二つに分ける。第一部は,デニスとエッグハートによる実験。実験により,トレーダーは育成できることが証明される。そして,第二部は,実験後の物語だ。本当に重要なのは,実は第二部だという。失敗したタートルに共通していたことは何だったか。彼らと,成功したタートルやデニスとの違いは何であったか。第二部に,そのヒントがあるという。これについては,端的に一言で書いても伝わりづらいように思うので,実際にタートルたちの物語を読んでみることをお勧めする。
まとめ
非常に濃い内容だった。
タートルズの手法について詳らかにしている点もさることながら,タートルたちの物語の面白さときたら。新聞広告で偶然目にした求人で人生が変わるという劇的なスタート。仲間との不和,実験の突然の終了。そして,デニスの下を離れてそれぞれの人生をスタートさせる...
これがフィクションではなく,実話だというのだからすごい。
ほとんど一気読みしてしまった。
最終的に,実験後のタートルたちの人生により,トレーダーとして成功するために一番必要なものが何か,著者の考えが明かされるのだが,これは何もトレードに限った話ではないように思う。人生で成功するためには,と言ってしまっていいように思う。
お気に入り度:★★★★☆
【中古】 ザ・タートル 投資家たちの士官学校 /マイケルコベル【著】,遠坂淳一【監訳】,秦由紀子【訳】 【中古】afb 価格:1,320円 |
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